Kousei MURATA Trombone Performer
村田 厚生 トロンボーン・パーフォーマー

作曲家のための現代奏法解説 村田厚生

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なるべく最新のものをご利用ください。最終更新 2017年9月7日

目次

  • 発音
  • 他の金管楽器と同様に唇の振動を楽器に共振させて音を得る。 唇が振動している時点ですでに音程があるので、唇のみ、マウスピースのみ、スライドセクションのみである程度演奏することができる。 マウスピースのみの場合は域の出口を手で開け閉めすることでミュート効果がある。スライドセクションのみでは全体の管長が変わるので比例してポジションの感覚も狭くなる。

  • 記譜
  • トロンボーンはB♭を基音をとする「ベー管」だが移調楽器ではない。必ず実音で記譜する。 音部記号はへ音記号、テナー記号、アルト記号、ト音記号が用いられ用途によって使い分けがなされる。

    オーケストラ:ヘ音記号、テナー記号、アルト記号(テナー記号とアルト記号は曲中で混在しない)、ト音記号
    ソロ曲と室内楽曲: ヘ音記号、テナー記号、ト音記号
    アルトトロンボーンのためのソロ曲:アルト記号
    ジャズ:ヘ音記号

  • 音域
  • 下記に用途別音域の概略を示す。

    譜例a:小中学生向けのバンド曲など
    譜例b:一般的なオーケストラ曲やシンフォニックバンド、ソロ曲
    譜例c:前衛的なソロ曲、現代音楽を専門とする楽団や一部のオーケストラ曲
    譜例d:音質や柔軟性、耐久力など考慮しない限界の音域の目安

    金管楽器の音域は声楽家と同じように個人差があり、音量や音質、演奏できる長さなど、表現力にも制約がある。下図は音域と演奏可能な長さを表している。最低音では大量の息を消費するため長い音やフレーズを演奏できない。逆に最高音域では口の周りの筋肉を酷使するため、連続した演奏が困難である。(記載した秒数は筆者の場合)

    下図は音域によって可能なダイナミクスを黒い部分によって表している。最高最低音域では極端なダイナミクスでの演奏が不可能である。この点は木管楽器と大きく異なる点で、誤解されていることが多い。大音量を期待する場合は平均的な音域に収めるべきである。

  • Fアタッチメント (F-attachment)
  • もっとも一般的なトロンボーンはテナー・トロンボーンであり、Fアタッチメント付きと無しのもの2種存在する。Fアタッチメント付きのものはヴァルブを操作することで完全4度下の音程を得ることができる。クラシックのトロンボーンはほぼ100%この楽器の使用を想定して差し支えない。ジャズではFアタッチメントの無いものを使用する。下図でE♭からえD♭までがこの「Fアタッチメント」で拡張された音域である。(F+数字はFアタッチメントを使用したときのポジションを示す。

    この図でCの音は、スライドをいっぱい(抜けるぎりぎり)まで伸ばさなければならないので早いパッセージは演奏できない(それでもやや高め)。その下Hの音は物理的には不可能だが、唇で強制的に音程を下げて(Bending tone or Fake tone) 演奏する方法で発音は可能である。 Fアタッチメントの調整管を抜いて暫定的にこのCやHを演奏することは可能である。

    上記譜例の右端Bの音以下はいわゆる「ベダルトーン(Pedal tone)」と呼ばれるもので倍音の基音に相当する。倍音が基音であるということ以外に他の音との区別は無く、わざわざ「Pedal tone」と指定する必要はない。このBからさらに6度下のEまではFアタッチメントを必要としない。それ以下の最低音域ではFアタッチメントを使った方が鮮明な場合と使わないほうが鮮明な場合が混在する。

    「バストロンボーン」もこの「Fアタッチメント付きテナー・トロンボーン」と基本的にまったく同じ長さである。ただ低音を豊かにするため管全体が太く作られ、マウスピースも大きい物を使用する。さらにひとつのヴァルブを追加して、F管のほかA♭やE、E♭、G管などのアタッチメントが付属することもある。この場合は前述のB♭とHの音も物理的に正しく演奏することができる。奏者はテナー奏者とバス奏者は別に扱われるが両方演奏できる奏者も多い。

  • ポジション指定 (position)
  • スライドには7種類の位置がありポジションと呼ばれる。(F-attachmentを使用した場合は6種類)あくまで目安であって固定されたものではなく倍音や調性によって随時調節が行われている。
    参考資料 トロンボーンポジション表参照

    作曲家がスライドのポジション(スライドの位置)を指定する必要性は次の場合に考えられる。

    • 後述のハーモニクス・グリッサンドを指定する場合。
    • 後述のカラートリルを指定する場合。
    • ポジションによる音質の違いを期待する場合。 たとえばヘ音記号上架線1本のDでは1ポジション(第4倍音)、4ポジション(第5倍音)、7ポジション(第6倍音)3種類のヴァリエイションが存在し、近いポジション(下の倍音)ではトロンボーンらしい明るい音色が得られ、遠いポジション(上の倍音)ではやわらかく鼻にかかった音が得られる。しかしポジションによる音質の差は大きくなく、よく響く会場などでは明確にならない。

  • グリッサンド (glissando)
  • 方向、速度が自由に指定可能。ただし完全なグリッサンドが可能な音程は下記音程以内に限られる。
    (F=Fアタッチメントを使用)


    スライドの動きを線に曲線等にイメージとして書くことも可能である。グリッサンドの途中で正確にリズム指定したい場合は、譜頭(音符の玉の部分)の無い音符を書くなどして対応する。

  • ハーモニクス・グリッサンド (harmonics glissando)
  • 「隣り合った異なる倍音列の音を連続的に演奏すること」と定義される。 早く演奏するとコロラトゥーラのような効果がある。スライドの動きは上行、下行とも可能である。

    サンプル再生
    参考曲目:Folke Rabe / Basta for trombone solo

    ハーモニクスグリサンドを指定する場合、音符上に数字でポジション番号を書くことがもっとも明快である。しかし理論上のポジションと実際に吹きやすい(ハーモニクスグリサンドの効果が出やすい)ポジションとは一致しないことが多い。そのため主要な音のみを指定し、harmonics glissandoなどと書き添えてポジションは奏者に任せる方法も現実的である。ハーモニクス・グリッサンドを同じ音程間で行うとカラー・トリルとなる。カラー・トリルの項参照。

  • ヴィブラート (vibrato with slide, lips, breath)
  • スライドか唇、あるいは息を使用する。
    スライドを使ったヴィブラートでは振幅、早さ、方向(ピッチの上方向か下方向、あるいは両方)の指定が可能である。振幅の大きなヴィブラートはトロンボーン独特の効果を持つ。次第に振幅を大きくしながら音を大きくする方法はよく使われ、クレシェンドの効果を高めることができる。 1ポジション、7ポジションでは、それぞれ上方向、下方向へのピッチのシフトはできない。
    唇を使ったヴィブラートでは振幅のコントロールは困難だが速さは自由にコントロール可能。
    息を使ったヴィブラートでは音の強弱の変化に付随してピッチが変化することでヴィブラートの効果を得る。振幅が大きくなると後述のトレモロと同様の奏法になる。

  • トリル (trill)
  • 3種類の方法がある。

    • 1.同じポジションで隣り合った倍音の音を、唇の操作によって交互に発音することで実現する。もっとも一般的な方法。下記にこの方法で実現可能な全音トリルを示す。
      この音域では短3度や長3度のトリルも可能だが若干速度が遅くなる。それ以上の音程はさらに遅くなりトリルのニュアンスは望めない。 また上記左端のDより下の音域では必然的に3度、4度、5度あるいはオクターブのスラーになり音程の幅が広いほど早く演奏することが困難になる。
    • 2.Fアタッチメントを使用したトリル。別紙参考資料参照
    • 3.スライドを出来るだけ早く動かしてトリルを模倣するもの。バロックのソロ曲などで使われることがある。

    トロンボーン独特の効果としてグリサンドとトリルを併用する事ができる。サンプル再生

  • カラートリル (color trill, bisbigliando)
  • 異なる倍音で同じ音程を交互に演奏するとカラー・トリルとなる。ポジションを変える際にどうしても多少のグリッサンドが含まれてしまうが意図的にスライディングの速度を遅くすることで独特の効果を得ることができる。譜例右はカラートリルをしながら音程を上にシフトしている例。(数字はポジション) 参考曲目:福井とも子 / 超ラセンIII

  • 発音 (attack)
  • 発音は息だけで hu、舌を使って tu、du、喉を使って ku などと発音することによって行う。これらの子音を指定して特別な効果を得ることもできる。ダブルタンギング(dukudukuなど)、やトリプルタンギング(duduku dudukuなど)は通常早いパッセージで使用される。
    弦楽器でよく使われる al niente(音量ゼロからのクレシェンド)は発音のタイミングをコントロールすることが非常に困難である。これは唇が振動を開始する瞬間に、音を維持するよりも大きな息の圧力が必要だからだと考えられる。(オーボエの低音域と同じ)
    通常音の末尾は喉の奥を閉めることによって行う(口を開けたまま息を吐き口の形はそのままにして息を止める動作)。これを舌でtutなどと固く止めると鋭いスタッカートあるいはスラップ・タンギングのような効果が得られる。
    サンプル再生
    参考曲目:山口恭子 / 廃墟のペッカリー for trombone and piano

  • フラッター・タンギング (flutter)
  • 舌を使うものと喉を使うものの2種類存在する。舌を使う場合は巻き舌のようにrrrrと舌を弾ませて発音する。サンプル再生 喉を使う場合はgrrrrと「うなる」ように喉を鳴らす。どちらの場合も息さえ出ていれば可能で、息音のノイズと組み合わせたり、音の任意の場所でフラッター・タンギングに移行し元にもどる、といった使い方が可能である。舌を使った場合の方がrrrrrというフラッター効果が良く聞こえ、音域や音量の制約も少ない。 記譜ではトレモロの印が代用され、さらに音符のそばに「flutter」と指定する。

  • タングラム (tangram)
  • 強い息のながれを舌で瞬時にせきとめることによって行う。この方法では演奏している管長の基音を多く含んだノイズが得られる。(つまり1ポジションではB♭)
    サンプル再生
    さらに大きな音量、あるいはもっとはっきりした音程を得たい場合は、舌で息をせき止める直前に瞬間的に息を流し、唇を震わせて通常の音のように発音する。
    サンプル再生 
    この方法だとほぼ全音域の音程を表現することができる。ノイジィーで鋭く勢いがあるので、大きい音量が可能であると誤解されやすいが、音量の面では普通に発音した方がはるかに大きな音量が得られる。スラップ・タンギングは多少口の形を変えなければならないことと、ひとつの音に対しても非常にたくさんの息を必要とする関係で速いテンポで演奏することは困難である。(筆者の場合は1分間160回程度のテンポが限度)。また同じ理由で通常の音と速く交互に演奏することは不可能。

  • スラップ・タンギング (slap)
  • 舌でせき止めた息を急激にリリースすることによって行う。タングラムと同じようにある程度唇を振動させることも可能。
    サンプル再生

  • トレモロ (tremolo)
  • huhuhuhuあるいはkukukukuと早く発音しながら息を出すことによってトレモロのような効果が得られる。ただしマリンバのようにきめ細かいものではなく、4分音符120のテンポで16分音符程度の速さが限界である。この方法は便宜上「トレモロ」としたがまだ奏法としては一般的ではない。したがって現段階で楽譜に「tremolo」と指定しても奏者は具体的な方法がわからない。そのため記譜する場合はスラースタッカートを書いて音符の下に「hu hu」などと指定する。斜め3本線のトレモロ記号を使うとフラッターと誤解される。 サンプル再生

  • ブレストーン・息音 (breath tone, breath noise)
  • 楽器に息を吹き込んで出す息音は近年良く使われる奏法である。 単に息を吹き込むだけでは作曲家の期待するほどの音量が得られずピッチもない。これはトロンボーンがヴァルブや管の曲折など、空気の抵抗をもたらす部分が少ないためである。
    サンプル再生 
    そのため実際に演奏するときは、やや口をすぼめて歯の間に空気を通し「シー」というノイズを人工的に作り出し、シラブルで音程表現をすることが必要である。
    サンプル再生
    オーケストラなどでさらに大きな音が必要なときは、マウスピースをはずして前後逆に持ち、そのマウスピースを通してマウスパイプ(楽器の先端の空気の入り口)に息をぶつける方法をとる。サンプル再生 これは大量の息を消費するため2秒ぐらいしか継続できない。連続で何度も演奏すると酸欠状態に陥る。
    サンプル再生

  • ミュート(mute)
    • ストレートミュート straight mute (st.mute)
    • ストレートミュートには木製と金属製の2種類があって、音質が著しく異なる。st.mute(wood)、st.mute(metal) などと指定。指定が無い場合は奏者が曲想や他の楽器とのバランスなどによって適当に選択する。オーケストラではたいてい金属製が使用されるがリヒャルト・シュトラウス、ベルク、ウェーベルンなどのドイツ系、武満などでは木のミュートが使われる。

    • カップミュート cup mute
    • カップ部分をベルに近づけたり、離したりする事で音質が変化する。cup mute(close)、cup mute(open)などと指定する。

    • ワーワーミュート wa-wa mute (wah-wah mute, wau-wau mute)
    • ハーマンミュート harmon mute 左手中心部の穴を開閉する事によって音質を変化させる。したがってFアタッチメント(左手で操作するヴァルブ)を必要とする音でこの操作を行うことはできない。このミュートでは中心部のステムを抜き差しする事によって音質をやや変化させられるが、トランペットほどの効果は期待できない。また演奏しながらこの作業を行うことはできない。このステム部分を取り外したものを特にハーマンミュート(harmon mute)と呼ぶことがあるが、区別が明確でないのでwa-wa mute (with stem)あるいは(without stem)などと指定する方が明快である。ステムをはずした状態は音量が小さくなり手の開閉の効果がほとんど無くなる。また低音域が不安定になる。楽器保持の問題でステムを伸ばした状態で長時間穴を開閉することはできない。(トランペットではこれが可能)

    • プランジャー plunger
    • 椀形のミュートで直接ベル(音の出口)を開閉する。音符の上にオープンでは○、クローズでは+などと指定する。また開閉の途中での効果を期待する場合は折れ線グラフのような線で指定する。グリサンドを併用すると効果を高めることができる。

    • ウイスパーミュート(プラクティス ミュート) whisper mute (practice mute)
    • 練習用の非常に小さい音がでるミュート。マイクが内蔵されていてアンプやエフェクターと直結できるものもある。 この場合楽器から出る音のほとんどを電気的にアウトプットできる。

    • バケットミュート(ベルベトーン ミュート) bucket mute (velvetone mute)
    • 小さなバケツ型でベルの先端に取り付けて使用する。 参考曲目:L.Berio / Sequenza V

    • ソロトーンミュート(クリアトーン ミュート) solotone mute (cleartone mute)
    • ミュートの中を息が通るようにしたものでSPレコードのような音が得られる。

    • ピクシーミュート pixie mute
    • ベル部分に隠れるように小さく作られたストレートミュート。プランジャーとの併用が可能だが音程が大きく乱れるため演奏に制約がある。

    • バズミュート buzz mute
    • 紙や樹脂の薄い膜が附属し、カズーのようなノイズが加わる。John Cageのsolo for sliding tromboneで使用されている。
      サンプル再生
      コンパクトディスクの中央の穴を指やテープでふさぎベルに押し付けて演奏することで簡易的にバズミュートの効果が得られる。

    その他特殊なものとしては、ビニールホースをつけて先端を振り回す、直径20cmほどのシンバルをプランジャーのように開閉し、ベルにぶつけたり、共振させることもある。(奏者の同意が必要!)
    ミュートの取り外しには最低3秒、取り替えには5秒の時間がかかり、演奏しながらのミュートの取り外しは困難。

    奏者は自分の左側にストックしたミュートを左手のみで扱えるように訓練すべきである。この方法は最短の時間で付け替えできるばかりでなく、ワーワーやプランジャーなど左手を必要とするミュートでも取り付けの後スムースに開閉動作に移ることができる。さらにしっかり差し込まなくてもとりあえず左手で押さえながら演奏できるという利点もある。

    プランジャーミュート及びワーワーミュートで左手の開閉を伴う場合、Fアタッチメントを操作できないため下記の音域は演奏不可能である。
    ただしFアタッチメントをテープで固定する、あるいは擬似的に(Fake Tone)として演奏することは可能である。

  • ゲシュトップ (gestopft)
  • 右手あるいは左手を直接ベルに挿入する奏法。左手で行う場合はすべての音で可能だが楽器を持ち替える必要がありさらにFアタッチメントを併用できない。右手の場合はFアタッチメントの使用を含めたすべての1ポジションと3ポジションの音で実現可能。音程は半音弱下がるがホルンのような著しい音質の変化は得られない。プランジャーミュートの代替的効果、視覚的効果。

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  • 重音奏法 (multiphonic)
  • 重音奏法には2種類あり、声と楽器の音を同時に演奏するもの(with voice)と、唇を不正振動させるもの(multiphonic with lips)がある。

    • 声と楽器の音を同時に演奏する方法
    • 記譜は普通同じ五線上に音符の形を変えて書く。複雑な音形で1段では表現できないときは2段譜も使われる。声の音域は演奏者の声域に一致し、ファルセット(裏声)での発声も可能。下記に大体の音域を示す。(筆者の場合)欧米では男性、女性奏者の声域の違いを配慮して必ずossiaを指定することが求められている。


      この方法にはトロンボーンにとって二つのおおきなアドバンテージがある。
      1.声域と一致している場合は互いに干渉する事ができる。つまり協和音や音のぶつかりを表現できる。 2.楽器の音と声、両方ともグリサンドが可能なため、徐々に声と楽器の音の間隔を開いたり、また交差したりできる。下記にそれらの例を示す。四角い音符が発声。サンプル再生

      どちらか一方を短い音にしてリズムを追加することも可能である。(下記参照)


      この場合は声、あるいは楽器の音どちらかを常に発音しているため正しいアタックができない。したがって短い音を鮮明にマルカートで演奏することは不可能である。

      近接したピッチで声と楽器の音を演奏すると「brrrrr」といった共振した効果が得られる。しかし音程が半音以下に設定された場合(下記譜例 a)は楽器の音のピッチに声が吸い込まれ、結局同じ音になってしまうという現象が起こる。したがって共振効果をはっきり期待したいときには声と楽器の音を全音でぶつける事を勧める。(譜例 b)

      楽器を通した声はどうしても楽器の音に対して小さく聞こえやすいので、音量的に同じぐらいのバランスで聞かせるためにミュートを使用して楽器の音を小さく抑えてバランスをとるという方法も良く使われる。

    • 唇を不正振動させる方法
    • この方法は唇の振動部分をすぼめて圧迫し強制的に2重に振動させる方法である。もっとも困難な奏法のひとつで、必ずしも練習すればできるというものでもない。可能な音の組み合わせも限られておりダイナミクスも柔軟に対応できない。したがってこの奏法を使う場合は何らかの代替奏法の指定が必要であると思われる。
      サンプル再生
      I.Xenakisの "Keren", P.Dusapinの "Indeed"などのソロ曲で使われており、 Mike SvobodaのCD "Power & Poetry"で完璧な演奏を聞くことができる。

  • シラブル (syllable)
  • 演奏しながらa,e,i,o,u(アエイオウ)などの母音の形に口の内部の形を変え音質を変化させることができる。i(イ)と o(オ)など極端な形を交互に指定すると効果が大きい。 サンプル再生 発音記号やローマ字を音符の上に記載する。特定の単語や文章を演奏と同時に発音して効果を得ることもある。ヘ音記号の下B♭あたりの音域でこのシラブルを極端に使うとモンゴルの「ホーミー」のような効果が得られる。

  • 微分音 (microtone)
  • 理論的には半音を無限に分けることが可能。J.Cageのトロンボーンとピアノのデュオ「TWO5」(1991) では半音が7段階に分割されて指定されている。 トロンボーンでは微分音を視覚的に(スライドを見て)確認できるのでほかの楽器よりは容易に演奏でき制約は少ない。

  • 吸気 (inhale noise)
  • 楽器を通して吸気することによって得られるノイズは排気のそれよいもやや大きい音量が得られる。 また同時に唇を高い音で振動させることで風の音のような表現をすることができるが肉体的に負担が大きい。 サンプル再生 吸気による発声で音程を指定することもできる
    参考曲目:L.Berio / Sequenza V
    吸気によって唇を振動させ、普通の演奏と同じような明確な音程を得る奏法も存在するが可能な奏者は非常に限られている。
    参考曲目:V.Globokar / RES/AS/EX/INS-PIRER

  • 循環呼吸 (circulated breath)
  • 頬に息をため、その息で音を出している間に鼻から吸気する。その際口の周りの形を変える必要があり音質が変化する場合もある。木管楽器より演奏に必要な息が多いので音域や音量に制約がある。一息で聞かせたいフレーズがある場合、どこで循環呼吸を行うかは指定せず、範囲を指定しIf possible, use circulated breathなどと注釈をつける方法を勧める。

  • 楽器から発生するノイズ (noise)
  • マウスピースを手のひらでたたくことで管の基音を含むノイズが得られる。スライドの先端を床につけ、右手で楽器の高さを調整しながらスライドを伸ばすことによって音程を変化させることができる。Fアタッチメント付きトロンボーンの場合Bb〜Dbも可能)。ジョイント部分のねじを緩めてチャラチャラいわす。ベルなどを指ではじく 等

    以下は通常の奏者には拒否される可能性が高い
    スライドを1ポジションの根元にぶつける 、ミュートをベルに接触させて共振させる、スライドで床を突いてノイズを出す。スライド部分をとりはずし密閉して外管をすばやく抜く(Fアタッチメント部分でも可)シュボッという爆発音。 ベルにアルミ箔などの異物を挿入する。マレットで楽器をたたく、水などの液体を楽器に入れて演奏する等

  • Fアタッチメントのショートカット (F-attachment tuning slide open)
  • Fアタッチメントの抜き差し管を外してショートカットした部分から音を出す奏法。通常の管長と同じになるようにチューニングすると演奏が容易になる。たいへん小さな音が得られ、エコーのような距離感を実現できる。通常の音と頻繁に行き来することが可能。
    参考曲目 V.Sannicandro / Apogio Ipogio for trombone and echo-instrument

【作曲家へのワンポイント】 時間が限られたオーケストラや室内楽のリハーサルでは音質、バランスや音の長さ、強さ、アーティキュレーションなど具体的な指示を積極的に行うべきである。熟練した奏者にとってはこのような指示の方がむしろ曲全体の理解の手助けになる。(工事現場で穴を掘っている人に必要な情報は建物全体のヴィジョンではなく、穴の形と深さである) 楽器の機能を深く理解して書くことが理想だが、そうでないことを理由にプレーヤーを恐れる必要は無い。作曲家が音のイメージをはっきり持ち、それを効率よく奏者に伝えることができれば必ずよい結果が期待できる。

【演奏家へのワンポイント】 作曲家の意図と記譜が必ずしも一致しないことを常に意識すべきである。現場で必要なダイナミクスや音の長さが正確に記譜されているとは限らない。楽譜に忠実であることは大切だがそれに固執せず、作曲家の意図を確認したうえで技術的な翻訳を行い、適切な記譜方法を作曲家にフィードバックすることが必要である。 演奏に限界を感じた場合、「速さ」「ダイナミクス」「肉体的な制約」「楽器特有の制約」など、どの部分で問題があるのかを作曲家に具体的に伝えて代替処置を考える必要がある。すべてをいっしょくたにして「こんなのできねえよ」と言うだけではせっかくのアイデアが無になってしまう。 一見不可能な要求でも、何度かチャレンジしているうちに作曲家の本当の意図が見えてくる場合もある。その意図を理解してより効果があり、演奏しやすい方法を見つけるのは演奏家側の仕事である。